個人事業主にとって、認知症は事業の継続性だけでなく、日々の生活や財産管理にも大きな影響を及ぼす深刻なリスクです。会社員のように所属組織のサポートがあるわけではなく、事業の全てを一人で管理しているため、事前の備えが特に重要となります。
認知症になると、以下のような問題が発生する可能性が高まります。
判断能力の低下: 契約の締結・更新、取引先との交渉、従業員の管理、新たな事業計画の策定など、重要な経営判断ができなくなります。
業務遂行の困難: 事務作業、専門的な業務、納品・請求業務などが滞り、事業が停止状態に陥るリスクがあります。
売上・顧客の喪失: 業務が停滞することで、顧客からの信頼を失い、売上が減少・消滅してしまいます。
預金口座の凍結: 判断能力が不十分とみなされると、銀行口座の入出金が制限されることがあります。事業資金と生活資金が混在している場合、両方が使えなくなる可能性があります。
公的書類の手続き不可: 確定申告、各種許認可の更新、保険の契約・解約など、重要な公的手続きができなくなります。
詐欺や悪徳商法の被害: 適切な判断ができなくなるため、詐欺や不要な契約の被害に遭いやすくなります。
これらのリスクを未然に防ぐためには、元気なうちに準備を進めておくことが不可欠です。
制度の概要: 本人の判断能力がしっかりしているうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に、誰にどのようなことを任せるかをあらかじめ契約で決めておく制度です。
メリット: 信頼できる人(任意後見人)に、事業の管理や財産の管理、生活上の手続きなどを託すことができます。
手続き: 公証役場で公正証書を作成する必要があります。
制度の概要: 任意後見契約とは異なり、本人の判断能力が十分なうちから、代理人に財産管理や各種手続きを任せるための契約です。
メリット: 認知症と診断される前から、健康状態や年齢を理由に日常生活の管理が難しくなった場合でも、速やかに支援を開始できます。
手続き: 委任する内容や期間などを具体的に定めた契約書を作成します。
計画の概要: 誰に、いつ、どのように事業を引き継ぐかを事前に決めておくことです。
メリット: 万が一の場合でも、事業がスムーズに継続され、顧客や取引先、従業員への影響を最小限に抑えることができます。
計画内容: 後継者の選定、事業資産(顧客リスト、技術、ノウハウなど)の引継ぎ方法、資金の手配などを具体的に定めておきます。
相談相手: 弁護士、司法書士、行政書士、税理士、FP(ファイナンシャルプランナー)など、専門分野の異なるプロフェッショナルに相談しましょう。
相談内容: 各専門家は、任意後見契約の作成、事業承継計画の策定、財産管理の方法など、具体的な対策についてサポートしてくれます。
個人事業主が認知症になった場合、事業だけでなく個人の財産や生活も危険にさらされます。このリスクを回避するためには、元気なうちに将来の備えをすることが最も重要です。任意後見制度や財産管理委任契約などを利用し、信頼できる人に後事を託す準備を整えておきましょう。